現在、もっともよく聞かれる言葉がAIとDXです。
それぞれ、AIが人工知能でDXがデジタルトランスフォーメーションの略語ですが、その違いについてよくわからない人が多いのではないでしょうか。
結論からいえば、AIとDXはまったく違うものです。
DXはデジタル化による革新を意味するのに対して、AIは膨大なデータにもとづきコンピューターが最適な答えを出してくれることを意味します。
この記事では、DXとAIの違いやAIを活用したDXの事例、DXを推進するためにAIをどう活用したらよいのかについて解説します。
AIとDXの関係性
AIとDXというと同じデジタルだろうと捉える人が多いのですが、冒頭で述べたとおり、まったく違います。ここでは、AIとDXの違いと両者の関係性について解説します。
AIとDXの違い
AIとDXの関係性をひとことで表すと、手段と目的です。つまり、DXは変革という最終的なゴールを表す言葉であり、DXを実現するための手段としてAIというツールがある、このようにイメージすれば間違いありません。
そのため、DXを推進するために必ずAIを利用する必要はなく、AIを利用しないシステムによってDX化推進を成功させた事例は数多くあります。
DXにおけるAIの位置づけ
DXとAIの関係性が手段と目的であれば、おのずとAIの位置づけも決まります。
つまり、AIはDXを推進するツールとして位置づけられているのです。
別の言い方をすると、DX化を成功させるためには現在の課題は何か、課題解決のためにはどのようにAIを活用すればよいのか、この点についてしっかりと分析しなければなりません。
流行りの言葉だからといって、ただやみくもにAIをシステムの一部として導入しようとしても、ほぼ間違いなく失敗するでしょう。
そのため、AIでは何ができるのか、AIの得意分野と不得意分野について深く理解することが非常に重要です。
DXの中で活用できるAI技術
DXに活用できるAI技術には次のようなものがあります。
- 画像認識
- 自動運転
- 音声認識
- 数値予測
- 言語解析
たとえば、画像認識であれば工場の不良品検出システムや顔認識によるセキュリティシステム、数値予測であれば証券会社の株価予測といった場面でAIが利用されています。
そのほかにも学習データにもとづく需要予測や、人々の行動パターンを分析して次のトレンドを予測するなど、あらゆる場面でAIはDXに結びついているのです。
AIを活用したDX化の事例
DX化推進のうえで、どのようなAI技術を活用しているのか、いくつか事例をご紹介します。
代表的な活用事例
具体的な事例をご紹介する前に、まず、一般的に企業ではどのようにAIを活用しているのかご紹介します。たとえば、このような活用方法です。(括弧内は使用されているAI技術)
- ヘルプデスクの自動応答(チャットボット)
- 商品の仕分け(音声認識)
- チェックインの自動化(顔認証)
- 食品生産の最適化(需要予測)
- リストの設定変更(RPA)
参考:株式会社アイスマイリー
このようにAI技術はさまざまな場面で使用されていることがわかります。
具体的な事例1:トヨタ自動車株式会社
トヨタは自動運転技術の取り組みをとおしてAIを活用しています。これは消費者向けの取り組みですが、自社においてもAIを活用する取り組みに力を注いでいます。
これが「工場IoT」と呼ばれるものです。
具体的には、自動車の数値データや3D CADデータを一元管理して、情報共有に必要なシステム基盤を構築しました。
その中で、これらの膨大な情報をAIによって最適化してデータ分析を行うことで、現場での困りごとを解決していこうとしています。
さらにAIの技術を取り込めば、データ分析だけではなく工場の設備を自動的に最適化したり、部品メーカーへの発注を最適化したり、こうしたことができるようになるかもしれません。
参考:製造業DX取組事例集(P.16~17 トヨタ自動車株式会社「工場IoT」)
具体的な事例2:イオン株式会社
イオンは、店舗運営支援AIを導入して、各店舗の効率的な運営と顧客行動の分析にAIを活用しています。
具体的には、AI技術のうち画像認識と音声認識を利用して、顧客が何を購入しているのか、陳列棚の欠品は何かを識別します。
これにより、売れ筋商品だけではなく、顧客が買い物中どのような行動をしているのかも把握でき、目標設定や事業計画づくりにAIを利用しているのです。
音声認識に関しては、店員の声掛けの状況や店内の音声をデータ化して、各店舗の雰囲気づくりに役立てています。
このようにAIが得意とする分野を最大限に利用しているのがイオンの取り組みです。
参考:DX推進事例のご紹介(日本マイクロソフト株式会社)(P.9~13 小売業ビジネス側のデジタル能力向上)
AIの活用によるDX化を成功させるポイント
AIを活用してDX化を成功させるためには、3つのポイントがあります。
・戦略・ロードマップの明確化
・経営陣・社員の理解
・人材確保・人材育成
それぞれのポイントについて解説します。
戦略・ロードマップの明確化
AIを活用してDX化を推進するためには、企業戦略やロードマップを明確化することが重要です。
明確なビジョンがなければ、AIをどのように活用して、どういった成果が得られるのかわからないからです。
DX化を推進するにあたり、企業理念や企業方針について立ち返り、AIを導入する意義があるのかしっかりと検討しなければなりません。
この点が不明確なままだと、後ほど解説するように計画倒れになったり、システム導入そのものが目的化したりすることにつながります。
経営陣・社員の理解
先ほど解説したとおり、経営陣がDXやAIについて正しく理解して、従業員に対してもDX化のメリットやAIとは何かを正しく伝えなければなりません。
DX化を推進するときに従業員が思うのは、既存の仕事のやり方を変えさせられるという反発と自分の仕事がなくなるのではないかという不安、この2点です。
そのため、従業員には仕事がなくなるわけではないことを伝え、DXによる負荷軽減や働き方が変わることを理解してもらう必要があります。
そのうえで、従業員に対して新たな教育の機会を与えるように経営陣が配慮することが重要です。
人材確保・人材育成
DX化でAIを活用する場合は、人材確保と人材教育が重要です。
ビッグデータの活用や画像認識など、従来とは違ったスキルが必要になるからです。
単にシステムの使い方を覚えるだけではなく、膨大なデータからどのような情報を引き出すのかが、AIを活用するうえではカギとなります。
たとえば、ChatGPTを使っていても期待した答えを返してくれないときがあります。
まさにあの状態と同じで、AIを活用するにはそれだけのスキルを身につけなければなりません。
こうした新たなスキルを身につけるためにはリスキリングが重要です。
経営陣は人材を確保するとともに、従業員に新たなスキルを身につけさせるための環境づくりと、モチベーションを上げるための施策を考えて実行しなければならないのです。
AIを活用したDX推進で注意すべき点
DX推進のためにAIを活用する場合、いくつか注意しなければならない点があります。
主な注意点は以下の3点です。
- 計画倒れにならない
- 導入を目的としない
- セキュリティ対策を考慮する
それぞれの注意点について解説します。
計画倒れにならない
DX化を推進しようと大号令をかけたものの、いざ企画・要件定義が始まると、業務や現場との乖離があまりに大きすぎて計画倒れになるケースは多々あります。
もしくは、流行だからとAIを活用したシステムの検証を始めたものの、次第に熱意が薄れてきて気がついたら検証報告をして終了してしまった、このようなこともよくある話です。
これは先ほど解説したとおり、DX化によってどのようにしていきたいのか、どのような企業になりたいのか、こうしたビジョンを明確にしていないことが原因です。
DXという目標が朝令暮改にならないためには、DXに対する経営陣のビジョンと覚悟が求められます。
導入を目的としない
DX化推進でよくみられる失敗事例のひとつに、システム導入を目的としているケースがあります。
これは、まさに手段と目的を間違えている代表的な例です。
つまり、AIを利用したシステムはあくまでツールであるにもかかわらず、システムを導入したことで満足してしまい、うまく活用できていないことを意味します。
導入を目的としないためには、やはりDXとAIとの関係性を理解することが重要です。
そのうえで、システムを導入したあとでも効率的に活用できているのか、常にモニタリングして改善し続けなければなりません。
セキュリティ対策を考慮する
AIを利用するうえで注意しなければならない点のひとつとして、セキュリティ対策があります。
セキュリティを考慮していないと企業の極秘情報や個人情報の漏洩につながるからです。
これはAIの特性である膨大なデータ収集に起因します。
つまり、AIは自身が収集する膨大なデータにもとづき最適な回答を導き出しますが、その中に極秘情報や個人情報があれば、それを最適な回答として第3者に提示する可能性があるのです。
意図せず入力したデータが知らぬ間に第3者に知れ渡ることになります。
悪意のある人物が情報を入手すれば、何かしらの被害や社会の混乱を招く事態になりかねません。
そのため、どのデータをAIに提供するのか、どのデータをAIに渡してはいけないのか、こうした方針をしっかりと決めたうえで、データごとに情報区分しなければなりません。
まとめ
今回はDX化とAIについて解説しました。
あらためて整理すると、DX化は変革という目的で、AIはDXを実現するための手段です。
AI技術はあらゆる場面でDX化に貢献しており、たとえば、需要予測やヘルプデスクの自動応答、チェックインの自動化など数え上げればきりがありません。
こうしたAIをDXとして活用するには、企業の経営者が経営戦略や事業計画の中で、DXについて明確な方針を打ち出すことが重要です。
そのうえで、AI技術の中で何が使えるのか、AIを使うとどうなるのか、こうした点を従業員に理解してもらう必要があります。
こうした点が明確にされなければ、AIの導入は成功しないどころか、従業員から反発を招く結果にもなってしまうのです。
これからますますDX化が進み、多くのシステムでAIを利用することが予想されます。
もし、DXやAIに少しでも興味を持ち、これからシステム開発に携わりたいと思ったときには、プログラミングスクールで基礎的なスキルを身につけることをおすすめします。