IT業界、とりわけシステムエンジニアに対して理解を深めていく中で出会うのが「SES」という単語です。当連載でも「」の記事内でSESについて触れている箇所があります。SESはエンジニアとして働くうえで、ある程度は受け入れる必要のある事柄であることは間違いありません。
今回、この記事ではIT業界における「SES」について、そのビジネスモデルやメリット、デメリットなどを解説していきます。エンジニアとして働いていくにはSESに対して、きちんとした理解と準備が必要かと思いますので、まずはその基礎知識的な部分を解説していきます。
SESとは
まずは「SES」について解説していきます。SESとは「システムエンジニアリングサービス」のそれぞれの単語の頭文字を取ってつなげた言葉になります。「System Engineering Service」のそれぞれの頭文字ですね。これはIT業界で一般的に行われている契約の一種です。
SESの肝とする部分は「クライアントに対してIT技術をサービスとして提供すること」になります。より端的にいうと「ITエンジニアを案件に送り込み、その作業時間分の人月単価(人件費)を請求する」というビジネスモデルになります。
前回の「」では、大規模案件などは国内大手企業が受注をすることが多いのですが、その案件に必要な人材をすべて企業内で賄うことはほとんど不可能です。大手企業の場合は複数案件が同時並行で動いていることが多いため、人員を自前で調達することは不可能です。
こうしたときに契約のある他の企業から「IT技術サービスの提供」という名目でエンジニアを送り込んでもらい増す。大手企業にとっては人員が集まり、人員を提供する側は作業時間に該当する人件費を請求することができます。これがSESの基本的なビジネスモデルです。
SESの注意点:契約上の注意
SESにおいて重要なのは「契約内容」になります。一見するとエンジニアを送り込むのだから「派遣と同じでは?」と思うかもしれませんが、これは厳密的には異なるので注意が必要です。実はSES契約と派遣・請負といった労働基準法で定まっているたものに該当しない「グレーゾーン」な契約です。
一般的によく言われる「派遣」との違いは、仕事内容の指揮系統がどこにあるか、という点になります。指揮系統というのは、仕事内容の指示がどこから来るかという点です。SES契約は仕事に対する命令権は派遣元企業にあり、派遣契約の場合は派遣先企業にあります。
これはどういうことかというと、SES契約では派遣先の社員さんから「〇〇をやってください」と言ってはいけないことになります。あくまでも自身が雇用されている企業から「〇〇の現場で〇〇の作業を行ってください」と命令されて初めて、派遣先の現場にて作業をすることができます。
これに対して派遣契約では、自身を雇用している企業からの指示ではなく、派遣先企業から直接的に指示を受けて作業することのできる契約となっているからです。なぜSES契約がそのような契約となっているかというと、「派遣契約」とはしたくないからです。
派遣契約を結ぶには「派遣事業許可」を受ける必要があり、派遣事業許可を受けるには「財産基準が2000万円以上、基準資産額が負債総額の1/7以上、現金預金が1500万円以上」といった厳しい基準をクリアする必要があります。きちんと許可を受けている企業もありますが、通常、IT企業は大きな資本を持たない中小企業が多いので、このような基準をクリアするための力を持っていません。
そこで出てきたのが「SES契約」というグレーゾーン的な契約内容になるのです。派遣とは「人材」を提供するものですが、SESでは「IT技術」を提供するとった名目となっています(実質的にIT技術が「人材」に結びついているとしても、です)。SESは契約的に注意が必要だと点は理解しておくべきかと思います。
SESのメリット・デメリット
エンジニアとして働く中でSESは切っても切り離せないことがあります。まずは冷静になって、SES契約で仕事をするにあたってのメリット・デメリットを考えてみたいと思います。
SESのメリット
SES契約におけるメリットは、これは企業側の目線になるのですが、労働力に対して対価が支払われるので安定した収益を計上できるという点になります。冒頭でも解説している通り、SES契約とは「労働力(人件費)」にお金が支払われます。一般的には「成果物」に対してお金が支払われますが、SES契約においてはその「支払われる対価」が異なります。
またSES契約では一般的に長期間になるので、送られる先の企業で技術力を磨くことができます。もちろん、送り込まれる先の仕事内容や肩書、使用される技術によって異なってきますが、案件に対してしっかりとコミットすることができれば、その経験を得ることができます。
エンジニアとして成長するためにもSES契約で、特定の仕事に長く就くという点では悪くない選択だと思っています。中にはSES契約で仕事をする中で培った経験・人脈から、フリーランスエンジニアとして仕事を受注できるケースがありますので、将来的にフリーランスエンジニアを目指すような場合には「成長への階段」として割り切ってもよいでしょう。
実際、筆者もSES契約で特定の企業にて半年間ほど仕事をした後に、独立するタイミングで仕事を発注してもらうことができました。筆者のケースのようにSES契約をうまく使うことで将来への布石を打つことも可能になります。そうした点がメリットではないかと思っています。
SESのデメリット
SES契約のデメリットとは「契約内容」があいまいであり、実際に指揮系統が守られない場合があること。また仕事で送られる先がブラック企業であったり、大炎上中の案件だったりすることがあります。キツイ職場環境での仕事を強いられる場合があるので注意が必要だということです。
また、SES契約が「労働力・労働時間」に対して報酬が支払われるから、といってもサボっていいいわけではありません。客先で仕事をする以上、やはり「一定以上の成果物」を求められます。仕事をする以上、やはり結果は求められるので注意が必要です。
SES契約で働くデメリットはこれくらいかなと思います。成果物を求められるのは、仕事をするうえで当たり前になるので、そこまで特殊なことではないと考えています。まずは「自分に与えられた仕事」をきっちりとこなしていくことが重要ということですね。
SESはエンジニアにとって避けられない
以上、IT業界でよく話題になる「SES」について解説しました。近年の風潮では「SESは悪」というイメージが嘯かれていますが、実際には「悪」とできないと思っています。というのも、多くの仕事はSES契約の上に成り立っていることが多いからです。
「SES契約は悪だから仕事をしない」みたいな考え方ではIT業界では生き残れないと考えています。もちろん企業が自社サービスで生き残っているならば別ですが、一般的なIT企業はSES契約による他社の仕事を手伝うことで存続しているのが現状です。つまリエンジニアとして生活するならば、SESは当たり前であり、もしSESがなくなれば仕事がなくなる可能性だってあるわけです。
個人的なスタンスとして、「SES契約はエンジニアとしての修行」くらいに割り切っておくのがよいかなと思っています。どんな仕事であれ、理想とするような働き方をするにはゆるぎない土台が必要ですし、様々な経験を積まなけれれば自分自身の実力が向上しないと考えているからです。
ですのでSESはエンジニアにとって避けることのできないことですし、それを毛嫌いしていては将来的に「仕事のないエンジニア」になってしまうかもしれません。そういった意味では例えSES契約であっても全力を尽くし、その経験すら自身の糧として取り込めるようになった方が良いと感じています。